blog〝評論らしき某日〟

読書を生かじり。映画を生かじり。JAZZ・SOULを生かじり。いささか恣意的な、おのれの理解を深めるための実験中ブログ

お笑い事件簿ーー笑いのセンス

 

 『笑いのセンス 日本語レトリックの発想と表現』中村明 (岩波現代文庫)

 季刊誌『考える人』(2012年夏号)で取り上げられていて、つい気になって注文したものだ。それには「笑い体系表」なる挿図が載ってあり、二段組みの字面のなかで一際目を引いた。
 肝心の本書は文章読本的な体裁になっていて、半分ほど読んで、投げ出してしまった。てっきり僕は、自然科学的なアプローチで笑いを体系化していく作りになっているのと期待して読み進めていくと、立派な文章読本であった(w)。まあ、よく考えれば(考えなくとも)副題にしっかり『~日本語レトリックの発送と表現』と書かれているわけだし、前述の『考える人』もそういった体裁だったわけだから当然で、Amazonのカートにながく居すぎたせいで無理解に購入した僕が悪い。


 前半数十ページほどは、たしかに、「笑い体系表」をめぐって論理的に体系化していく仕立てになっているので、楽しめたわけだが、その後はいささか冗長に感じてしまった。というのも、一般的な修辞法や落語や漫才、小説といったジャンルごとに延々と「笑える」文章「笑える」挿話を紹介するのだ。そこへ持ってきて、いちいち「~するところがおかしい」「~ここが笑えるポイントである」などと形式的に講釈するのだから、なんだか萎えてくる。よっぽど高度で隠喩的な状況説明ならまだしも、たいていが読めば8解ることを、丁寧に10解説するわけだ。
 それもこれも裏を返せば、幾つもの「笑える」エピソードを膨大な作品から洗いだし抄出していることになるから、著者の碩学と丹心が活字いっぱいに感じてくる。なにせ、半分読んだだけで50を越す題材や資料を引き合いに出しているのだから。完読を断念してから、ぱらぱらと頁を繰っていくと、はたしてその調子で題材を枚挙していたので、その様相にはある意味頭が上がらない。と、まあ、少なくとも僕にはお腹いっぱいだった。
 むろん、同じ理由から文章読本としては興味深い著書だろう。古今東西の物語を題材に、豪快な笑いから繊細微妙な笑いまで、品揃えバツグンの挿話群を漁っていけるのだ。畢竟、「お笑い事件簿」的な副題でもおかしくない、いえるかな。それに時間に余裕があったのなら、存分(存外?)に楽しめたかもしれないと、いまになって思う。